装幀アットランダム(8)花田清輝の「錯乱の論理」 ― 2012/02/12 07:22
さすがは書き文字の高橋錦吉である。
表紙の題号は型押しで印刷してある。
どう見ても活版印刷で、写植などない時代であるから、文字が長体掛かっているのは、活字をわざわざ鋳造したのだろうか。
この本を買うまで、レタリングの学習本でお世話になった高橋先生がこんな装幀をしているとは寡聞にして知らなかった。
キリコの絵の採用といい、戦後芸術運動の水先案内となったこの名著に相応しいブックデザインである。
† 錯乱の論理
花田清輝/著
装幀/高橋錦吉
真善美社●
●昭和22年9月25日発行●A5判 カバー 343頁 140円
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装幀に屈託あり(28)シムノン「自由酒場」の装幀者は? ― 2012/02/15 10:20
シムノンの『自由酒場』である。
原題は「Liberty Bar」という作品で、この翻訳書の前に別の出版社から本書と同じ伊東鋭太郎訳で出ているが、あれから七十年以上経った今日まで、日本語訳はこの訳者のものしかない。
以前、といっても、昭和三十年に遡るが、モダンミステリの一冊として、曽根元吉訳の新刊予告がされていたが刊行はされてない。
この戦前に出た本だが、例のごとく装幀者の記述のない一冊。しかし、「おんな」や「ひと」の顔がいくつも描かれていて、どうもどこがで見たような仮面的造形とも思えた。
それは誰あろう、かって二科会を率いて活躍した東郷青児である。 先生の画集を調べると、戦前、パリから戻ったころの描いた『椅子』という作品の女の顔に酷似していた。
それに箱の裏の大きな丸。これは東郷青児が好んで、装幀に使ったデザインを髣髴させる。以上、顔と丸で、もしかしたら東郷青児ではないかと、勝手に推定?
† 自由酒場(付 倫敦から来た男)
ジョルジュ・シメノン(シムノン)/著 伊東鋭太郎/訳
装幀/東郷青児(推定)
アドア社●
●昭和11年11月9日発行●四六判 上製箱 364頁 1円80銭
装幀に屈託あり(29)真似てくれたよ、櫻井忠温(ただよし)さん! ― 2012/02/18 07:02
昨年12月、この屈託のページ(17)で褒めあげた「土の上・水の上」の装幀が大いなる盗用であったことが解った。
不覚であった。どこかで見たことのある機関車の絵だなと、頭の隅で思っていたが、今年になって、いろいろ資料を渉猟していて、カッサンドルのポスターに偶然ぶち当たった。
唖然、愕然、アムンゼンであった。
しかし、巧みに自分の絵の中に、カッサンドルのポスター『北方急行列車』を取り込んだものだ。模写の技術もすばらしい(もしかして、ポスターそのものを張り込んで、顔料で加工、版下を作ったのかも)。
ポスターの制作年から推定すると、忠温先生、フランス滞在中、このポスターを見るか、持ち帰りでもして、盗用したものと思われる。
†土の上・水の上
櫻井忠温(ただよし)/著
装幀/櫻井忠温
實業之日本社●
●昭和4年9月15日初版/昭和4年10月9日十三版発行●四六判・461頁 貳円
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装幀アットランダム(9)再び花田清輝で、「近代の超克」 ― 2012/02/20 08:53
自著自装本(1)高峰秀子の「巴里ひとりある記」 ― 2012/02/25 18:03
一昨年なくなられた、デコちゃんこと高峰秀子の本がなぜかブームだ。新刊書店の平台に彼女の書いた本がたくさん並んで、壮観である。
私の世代だと、小学校で見に行った『二十四の瞳』のおなご先生、大石先生役が印象深い。
彼女の最初の本『巴里ひとりある記』は得意のスケッチ画をふんだんに鏤めた自装本である。
この本何しろ豪華である。口絵の肖像画を梅原龍三郎が描き、ポートレート写真を早田雄二が撮り、扉には仏文学の渡邊一夫の「セーヌのほとりにあたしはひとり」とのペン書きもあるのだ。
今、平台に積み上げられた新装版は、この自装本に比べると見劣りすることは否めない。そのすべてをお見せ出来ないのがいかにも残念である。
† 巴里ひとりある記
高峰秀子/著
装幀・挿絵/高峰秀子
高峰秀子像/海老原龍三郎・画 ポートレイト/早田雄二・写
扉・仏文/渡邊一夫・筆
映画世界社●
●昭和28年2月28日発行●A5判変型(145×192ミリ) 箱・帯 183頁 340円
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