こんな装幀家がいた(三)またまた、内間安(王星)あんせい!2013/02/04 08:44

装幀/内間安(王星)あんせい

古本の山を崩していたら、またまた出てきてしまった。歳月のためカバーは傷んでいたが、色鮮やかさは失われていなかった。

装幀者の名前があるかと見るとまたまた内間安(王星)あんせい。前に紹介した二作品より年代的に古いので、まだまだ具象的な作風が色濃く残っている。

氏の足跡の一端を知る上で貴重だし、もう誰もこんな本を持っていないだろうし、こんな場所で、わざわざ紹介する人もいないと思うので取りあげた。


† 墓場への闖入者


 ウイリアム・フォークナー/著 加島祥造/訳

 装幀/内間安(王星)あんせい

        ↑王偏に旁が星の字がない

 早川書房●

 ●昭和26年6月10日初版発行●四六判(125×185ミリ)仏装・カバー 267頁 75円  


↓源義&春樹さんの角川文庫・翻訳文学はこちらへ/

http://www.k5.dion.ne.jp/~miauler3/kado/kado00.html


シムノンのメグレ本の装幀についてはこちらへ/

http://www.asahi-net.or.jp/~px5t-isi/


三雲祥之助、浅草仲見世を描いて秀逸。高見順『如何なる星の下に』2013/02/11 11:23

三雲祥之助/装幀・挿絵

この本の表紙を見て、一瞬、半世紀以上も前小学生だった頃の記憶が戻った。私は初詣の人並みにもみくちゃにされながら、ここを家族とともに本堂へ向かった歩いていたのだ。

浅草仲見世。戦後もあの頃までは東京で、一、二を争う盛り場だったろう。そこが舞台の小説の装幀だから、仲見世を描いて当たり前だが、この達者な腕は群を抜いている。

箱には浅草六区の楽屋が描かれていて、鏡を前に舞台化粧をするレビュー嬢もまたいい(お見せできなくて残念)。


† 如何なる星の下に


 高見 順/著

 三雲祥之助/装幀・挿絵

 新潮社●

 ●昭和15年4月27日初版 5月12日18飯発行●四六判(130×190ミリ)・箱 302頁 1円80銭


こんな文庫・あんなカバー(21)角川文庫『ごった煮』2013/02/15 09:17

岡本鉄四郎/カバー装幀

これは上下二冊本。ジェラール・フィリップのフランス映画「奥様ご用心」の原作であるが、角川文庫のゾラの翻訳の中では、『禁断の恋』の次に見かけない珍本だろう。

カバー装幀者、岡本鉄四郎というひと、あまり聞かない名前? 調べた限りでは洲之内徹の本にその名がちょっと書かれていただけで、詳しくは分からない。

ユトリロの向こうを張ったかのように、モンマルトルのラパン・アジルが達者に描かれていて、何とも捨てがたいいい絵なのでスキャンした。

上巻もやや色調が違うが似たような構図で、やはりラパン・アジルが描かれているが、上出来だと思う下巻にした。


† ごった煮 下巻


 ゾラ/著 田辺貞之助/訳 岡本鉄四郎/カバー装幀

 角川文庫 昭和33年12月30日 発行●

 A6判(105×148ミリ) 284頁 110円

装幀アットランダム(22)佐藤 敬の「結婚の生態」2013/02/20 11:51

装幀/佐藤 敬

ご覧いただいている表紙もそうだが、箱も同様に昨日印刷されたばかりのように色鮮やかであった。これがとても七十年以上も前の本とはとても思えない。

箱は乾燥のため、芯のボール紙から印刷紙の糊付けが剥がれてしまっているのが難だが、この佐藤敬の生き生きとして池畔風景は絶品もの、眺めて人をうっとりさせる。

奥付の百二十版とは一回何冊刷っているのかは分からないし、この大げさな数字は割り引いて見なければならないが、まあ当時の大ベストセラーなのだろう。『四十八歳の抵抗』の作者は戦前からの流行作家だったのだ。


† 結婚の生態


 石川達三/著

 装幀/佐藤 敬

 新潮社●

 ●昭和13年11月30日発行 昭和14年10月15日百二十版●四六判 296頁 1円50銭

装幀に屈託あり(30)若き日の吉田謙吉の仕事2013/02/28 09:42

吉田謙吉/装幀

この本を買ったのはかの吉田先生の装幀本だったからである。八十年以上も前の戯曲集で、内容は興味津々、時間があったら読みたいがまだ読んでない。

背と裏表紙まで一続きの絵になっている構成で、この頃の画風はとぼけた元祖ヘタウマ派のおもむきがあって面白い。

以前、吉田謙吉の最高のクラスの仕事であると紹介した火野葦平の『小説欧羅巴』に比肩し得る仕事と思う。


† 飛ぶ唄


 金子洋文/著 吉田謙吉/装幀

 平凡社●昭和4年12月10日発行

 ●四六判・箱はあるはずだが、欠 412頁 1円30銭