装幀に屈託あり(17)櫻井忠温(ただよし) 「土の上・水の上」 ― 2011/12/22 07:09
書名からして、人を喰っている。いわゆる判じ物。汽車に乗り、船に乗り欧米各地の旅の記録といった内容で、ご自身を蛙に見立ててこんな書名をつけたといっている。
その内容はともかくとして、この本の装幀には刮目せざるを得ない。この御仁の自装本だが、とても素人業ではないのだ。経歴によると、お若い頃、京都で日本画を学んだそうだから、十分その素地はあったのだろう。
かの日露戦争の旅順攻防では奇蹟の生還をし、陸軍少将で退役後、ジャーナリストに転身した異色の経歴も明治人の面目躍如たるものである。
†土の上・水の上
櫻井忠温(ただよし)/著
装幀/櫻井忠温
實業之日本社●
●昭和4年9月15日初版/昭和4年10月9日十三版発行●四六判・461頁 貳円
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http://www.k5.dion.ne.jp/~miauler3/kado/kado00.html
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装幀に屈託あり(16)装幀者不詳の 「モン・パリ変奏曲・カジノ」 ― 2011/12/20 10:37
戦前ではちょっと手の込んだ装幀の本でも装幀者の分からないことがやたらとあって、困る。まったく本の意匠の著作権など頭になかったということなのだろうか。
春陽堂のこのシリーズは表紙と同じカバー付で、見返しや扉、目次、各ベージのノンブルのデザインも趣向があって面白いのだが、いったい誰のアートディレクションなのか、分からないのだ。
写真やイラストも数点あるのだが、やはり誰のものか書いていない。原書からの無断盗用なども平気で横行していたのだろうか。春陽堂さん、どういうことですか。
†モン・パリ変奏曲・カジノ
フィリップ・スーポー、フランシス・ミオマンドル/著
石川 湧・丹 京一郎/訳 装幀/不明
春陽堂●世界大都会尖端ジャズ文学(4)
●昭和5年4月18日発行●四六判・326頁 1円50銭
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●パリの本(11)ニコ・ジェス「パリの女」 ― 2011/11/30 16:37
なぜか、このクラシックな装幀の本が新刊書店に並んでいた。奥付を見ると、去年の重版であった。今さら一九五〇年代のパリジェンヌの本が重版されたのか、皆目分からない。
暗い戦争が終わって、眩いばかりのパリジェンヌの躍動を活写したニコ・ジェスの写真は初版当時はかなりのインパクトがあったろうが、半世紀も経っての、この重版には正直びっくりした。
よくもまあ、写真版の製版フィルムを残していたものだと、変な感心もした。しかし、印刷は昔の本のほうが数段上出来である。因みに新刊定価は2980円でした。
† パリの女
アンドレ・モーロア/著 ニコ・ジェス/写真 朝吹登水子/訳
紀伊国屋書店 1959年5月7日 第2刷発行(第1刷 同年4月15日) 380円
A5判(148×210ミリ)
本文/68頁 あとがき/2頁 写真頁/記載なし 写真点数/114点
●パリの本(10)女ひとりの巴里ぐらし ― 2011/10/24 13:54
シャンソン歌手、石井好子の処女出版である。在仏の日記から、本にまとめたと後書きにある。著者のパリ修業時代が描かれ、当時の下積みの芸人世界が細々(こまごま)わかって面白い本になっている。
カバー袖には三島由紀夫の推薦文があり、装幀は東郷青児、荻須高徳と、新書ながら錚々たる人物が関わっていて、彼女のその筋での人気は相当のものであったのだろう。
この本の見返しには、パリ滞在の娘に代って、世話になった舞台演出家に宛てた父親、石井光次郎の代筆・献呈署名があるのが、何とも微笑ましい。
† 女ひとりの巴里ぐらし
石井 好子(いしい よしこ) 著
鱒書房 コバルト選書 昭和30年8月15日 発行
新書判(105×175ミリ) 176頁 120円
カバー/荻須高徳 表紙/東郷青児 推薦文/三島由紀夫
シムノンっぽく、あるいはメグレっぽく(3)セトル・ジャンのお店 ― 2011/09/19 10:06
その昔、パリはレアル・旧中央市場にB.O.F.(ボン・ウブリエ・フランス)という一杯飲み屋があったという。周囲の再開発後も親爺セトル・ジャンは愛妻と二人で店を切り盛りしていた。
わが愛するシムノンも通っていた店だという。勿論私はこの店を知らない。しかし、池波正太郎先生のフランス話には再三でてくるので、私もいつのまにか馴染みのお店と錯覚するようになってしまった。
池波先生の著書に、シムノンがこの親爺のお店を彼の新作のカバー写真に使っていて、親爺セトル・ジャンから、いかにも自慢気にそれを見せられたとあった。
私も見たいし、欲しかった本である。それがこの本である。
†MAIGRET et le marchand de vin (メグレとワイン商)
ジョルジュ・シムノン/著 1969年作品
1971年第2四半期(4月〜6月) 初版発行
PRESSES DE LA CITE版(106×178ミリ) 186頁 1981年印刷&刊行
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