●パリの本(11)ニコ・ジェス「パリの女」2011/11/30 16:37

ニコ・ジェス/写真

 なぜか、このクラシックな装幀の本が新刊書店に並んでいた。奥付を見ると、去年の重版であった。今さら一九五〇年代のパリジェンヌの本が重版されたのか、皆目分からない。

 暗い戦争が終わって、眩いばかりのパリジェンヌの躍動を活写したニコ・ジェスの写真は初版当時はかなりのインパクトがあったろうが、半世紀も経っての、この重版には正直びっくりした。

 よくもまあ、写真版の製版フィルムを残していたものだと、変な感心もした。しかし、印刷は昔の本のほうが数段上出来である。因みに新刊定価は2980円でした。


† パリの女


   アンドレ・モーロア/著 ニコ・ジェス/写真 朝吹登水子/訳

   紀伊国屋書店 1959年5月7日 第2刷発行(第1刷 同年4月15日) 380円

   A5判(148×210ミリ)

   本文/68頁 あとがき/2頁 写真頁/記載なし 写真点数/114点

●装幀に屈託あり(8)東郷青児の「ロマンス・シート」2011/10/26 09:07

東郷青児・表紙画

 これは翻訳ではなくて、著者自身の体験をちりばめたたエッセー。パリ時代の思い出を中心とした随想と思って買ったが、いささか違っていた。

 購入したのはかなり昔で、長らく放りだしたままであった。今回斜め読みしたら、様々なエピソードの中には、著者のラブアフェアも登場するので、なかなか面白い。

 しかし、ご自身の本だから表紙画は当然として、扉画を他人に任せているのはどういうことか、吉村勲とはいかなる人物か、寡聞にして分からなかった。調べると、マネキンの大家で二科会の重鎮でした。これで、疑問は氷解しました。お友達でした。


† ロマンス・シート


   東郷 青兒(とうごう せいじ) 著

   出版東京 コバルト選書 昭和27年8月15日 発行

   四六判(130×188ミリ) 233頁 190円(都内180円)

   仏装・表紙画/東郷青児 扉画/吉村 勲

●パリの本(10)女ひとりの巴里ぐらし2011/10/24 13:54

カバー・荻須高徳

 シャンソン歌手、石井好子の処女出版である。在仏の日記から、本にまとめたと後書きにある。著者のパリ修業時代が描かれ、当時の下積みの芸人世界が細々(こまごま)わかって面白い本になっている。

 カバー袖には三島由紀夫の推薦文があり、装幀は東郷青児、荻須高徳と、新書ながら錚々たる人物が関わっていて、彼女のその筋での人気は相当のものであったのだろう。

 この本の見返しには、パリ滞在の娘に代って、世話になった舞台演出家に宛てた父親、石井光次郎の代筆・献呈署名があるのが、何とも微笑ましい。


† 女ひとりの巴里ぐらし


   石井 好子(いしい よしこ) 著

   鱒書房 コバルト選書 昭和30年8月15日 発行

   新書判(105×175ミリ) 176頁 120円

   カバー/荻須高徳 表紙/東郷青児 推薦文/三島由紀夫

装幀に屈託あり(2) 柳澤 健『回想の巴里』2011/09/22 08:27

柳澤 健「回想の巴里」

画家としてばかりでなく、ブックワークの世界でも活躍した藤田嗣治画伯。その本の仕事の全貌が今年になって、林洋子さんという京都の大学の先生の手によってまとめられた。

新書ながら丹念に調べあげた入魂な仕事で、一読感服。そういえば確か仙花紙の嗣治の装幀本があったぞと、乱雑本棚をがさごそと…。

やっと出てきたと思ったら、扉の挿絵はどうか知らないが、表紙は明らかに戦前の文藝春秋(1940年10月号)に載せたイラストのリライトでした。

著者の自序によると、嗣治先生、旧友の装幀の依頼に『この種の注文は最近は一切断って、自分の仕事に精進をしているのだが、君の頼みじゃ…」と言って進んで引き受けてくれたとある。

が、しかし、二十年来の友人に、そんなに恩着せがましく言っておいて、一度描いた絵のなぞりを寄越すなんて!(私が腹を立てることじゃないけれど)。

こんなことが林先生のお仕事でわかってしまって、懇切丁寧が仇。何と言ったって、文春に載ったいた挿絵の方が、数段いいんですよ。


†回想の巴里


 柳澤 健/著

 酣燈社●昭和22年10月5日発行

 ●B6判・211頁 65円


†藤田嗣治 本のしごと


 林 洋子/著

 集英社新書ヴェジュアル版●2011年6月22日発行

 ●新書判(106ミリ×173ミリ)・253頁 1200円

シムノンっぽく、あるいはメグレっぽく(3)セトル・ジャンのお店2011/09/19 10:06

「メグレとワイン商」の原書

その昔、パリはレアル・旧中央市場にB.O.F.(ボン・ウブリエ・フランス)という一杯飲み屋があったという。周囲の再開発後も親爺セトル・ジャンは愛妻と二人で店を切り盛りしていた。

わが愛するシムノンも通っていた店だという。勿論私はこの店を知らない。しかし、池波正太郎先生のフランス話には再三でてくるので、私もいつのまにか馴染みのお店と錯覚するようになってしまった。

池波先生の著書に、シムノンがこの親爺のお店を彼の新作のカバー写真に使っていて、親爺セトル・ジャンから、いかにも自慢気にそれを見せられたとあった。

私も見たいし、欲しかった本である。それがこの本である。


†MAIGRET et le marchand de vin (メグレとワイン商)


   ジョルジュ・シムノン/著 1969年作品

   1971年第2四半期(4月〜6月) 初版発行

   PRESSES DE LA CITE版(106×178ミリ) 186頁 1981年印刷&刊行


◎メグレ本の日本語書誌についてはこちらへ

http://www.asahi-net.or.jp/~px5t-isi/