知られざる装幀者(1)伊藤悌三 ― 2012/10/01 09:12
昔むかしの早川書房の翻訳シリーズ本。『仔鹿物語』で著名なローリングスの作品であるが、今となっては見捨てられた稀覯本の一冊だろう。
表紙絵の作者は寡聞にして、これまで知らなかったが、裸婦像の作品で、今でも名の知れた作家とグーグルの検索で解った。
この早川のシリーズで、確か別の本の表紙も描いていたと思うが、思い出せない。まあ、誰も取りあげないだろうし、珍しいので掲載する。
† 水郷物語
マージョリ・キナン・ローリングス/著 村上 啓夫/訳
伊藤悌三/装幀 エドワード・シェントン/挿絵
早川書房●
●昭和26年11月20日発行●四六判 上製 カバー 388頁 280円
全集&叢書の装幀(4)吉田謙吉だった『世界プロレタリヤ文藝選集』 ― 2012/10/07 10:38
時代がかった意匠が多い戦前の装幀の中にあって、超モダンである。この頃のロシアンアバンギャルドの影響と思う。
奥付裏の広告ページを見ると、この叢書第一期十二冊刊行とある。その前にもこの版元・金星堂は同様のプロレタリア文学の翻訳選集を出しているので、その焼き直しかも知れない。
案の定、この全集の装幀者は未記載である。しかし、幸運なことに扉のカットに「ken」のサインがあった。それで、かの吉田謙吉とした。
† 拝金芸術
アプトン・シンクレア/著 木村生死/訳 吉田謙吉/装幀
金星堂 世界プロレタリヤ文藝選集 昭和5年3月15日 発行
B6変型・並製(125×165ミリ) 199頁 30銭
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http://www.k5.dion.ne.jp/~miauler3/kado/kado00.html
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装幀作者不詳本(5)捨てがたい作品「オクトパス」上巻 ― 2012/10/20 09:57
翻訳は農民文学者の犬田卯である。残念なことに上巻のみで、続きは出ていないらしい。
この表紙、一目見て戦前の本と分かる。しかし、装幀者は分からない。版元はまたまた新潮社である。
機関車に轢かれ、跳ね飛ばされる羊は、鉄道資本対小作人たちの現実を模して秀逸だし、出来映えは上々。一見の価値ある装幀であろう。
†オクトパス(上巻)
フランク・ノリス/著 犬田 卯/訳
装幀/不明(誰かの作品に似てるようでもあり、思い出せない)
暁 書院●
●昭和8年4月20日初版発行●四六判よりやや大きい(135×195)ミリ 429頁 1円80銭
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恩地孝四郎の仕事(2)異端の作品、トロッキー『自己暴露』 ― 2012/10/23 07:45
この箱のデザイン、言われなければ、どなたも恩地孝四郎の作品とは思うまい。
恩地先生の長い装幀家としてのキャリアを辿ると、非常に違和感を覚える作品に遭遇する。このトロッキーを含む、昭和五年に出版された翻訳書である。
氏の仕事は生涯を通して、気品ある静かな佇まいを見せて、多くの傑作を残したが、この時期に限り、うねるような荒々しい感情が横溢し、それは虚仮威し的ですらあるのはなぜか。
古典的作品群にあって、この時の破調はどうしたことか、謎である。 当該本には装幀者の名前は入っていないから、息子さんの本で、先生の作品とされていなければ、誰しもよくある装幀者不明本にするところである。
† 自己暴露
トロッキー/著 青野季吉/訳 装幀/恩地孝四郎
アルス(ARS)●
●昭和5年7月22日発行●四六判(125×186ミリ) 523頁 1円80銭
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