●パリの本(9)世界に摘む花—物語紀行文集—2011/08/17 11:12

岡本かの子「世界に摘む花」

 今年になって岡本太郎の人生がドラマ化されましたので、長く放りだしてあったこの本を読んでみました。一読、びっくりしました。

 当時のフランス画壇についての記述があり、ピカソ論を堂々と開陳しているではありませんか。改めて自分の迂闊さを恥じるとともに、こんな母親を持った太郎さんはさぞかし大変だったろうと、要らぬお節介な気持を抱きました(旦那さんの一平先生はもっと大変)。

 私は一度だけ、生身の太郎を見たことがあります。遠い昔です。安保闘争の翌年だったか、芸大の文化祭講演会(聴衆の大部分は在学生)で、「君たちの執るべき道は即刻芸大を止めることだ」と、吠えていた岡本太郎が印象的でした。


†世界に摘む花—物語紀行文集—


   岡本 かの子(おかもと かのこ) 著

   實業之日本社 昭和11年3月1日 発行

   四六判(127×188ミリ) 384頁 箱 表紙・扉絵/岡本かの子

こんな文庫・あんなカバー(3) 旅は青空2011/08/18 07:47

旅は青空

私は池波正太郎のいい読者ではありません。彼の表看板の時代物を一冊も読んだことがないからです。嵐寛寿郎の鞍馬天狗を最後に見た世代ですが、とんと大衆小説としての時代物とは縁がありませんでした。

そんな私を夢中にさせたのが、人気作家として長く活躍した池波正太郎の「旅もの」でした。いや、実にうまい。何度読み返しても、厭きない不思議な魅力に富んだ作品群でした。

先生はスケッチもお好きだったらしく、ご自身の絵を自著のカバーに何度も使っていますが、これもそのうちの一冊です。私も一度は行きたかったビストロが描かれていて、パリの良き時代を髣髴とさせる、私の好きな先生の絵です。

最後にあとがきの常盤新平氏のオマージュもまたいい。池正の「旅もの」の魅力を余すところなく伝える文章は流石、手練れの技。感服するより他はありません。一読をお薦めします。


†旅は青空 新潮文庫


 池波正太郎/著

 昭和62年3月25日 初版 発行

 A6判(105×148ミリ) 107頁 280円

シムノンっぽく、あるいはメグレっぽく(1)日曜日2011/08/19 07:44

「日曜日」生田耕作/訳

シムノンの本格小説の96番目の作品だそうです。彼の非メグレ物は救いのない世界を描くことが多いと感じて、あまり私の好みではありませんが、これは面白かった。

妻殺しは図る旦那の勝利感から死への落差はまさにジェットコースター並で、淀川長治調に「恐いですねぇ」といいたい奥さんが、実にいい?(殺されたくはないけれどね)。

耕作先生の翻訳選集に収録されなかったのが、とても不思議な秀作です。


†日曜日 シムノン選集(7)


   ジョルジュ・シムノン/著 生田耕作/訳

   集英社 昭和45年3月25日 初版発行

   四六版(127×188ミリ) 204頁 520円

   カバー装幀/宇野亜喜良

シムノンっぽく、あるいはメグレっぽく(2)メグレと若い女の死2011/08/21 19:23

ポケミス「メグレと若い女の死」

若い身空で、なぜ、その小娘はパリの巷で死なねばならなかったのか。メグレは激しい憤りを禁じえません。

版木に向かう職人のごとき丹念な一彫り一彫りの捜査が続き、やがて、パリでの彼女の生活が刻み出されて、犯人にたどり着きます。

この被害者の生前の姿を、行動を目にすれば、誰しも涙、涙のはず。

メグレ物の一冊を選べと言われたら、私はこれを選びます。もうメグレ調独擅場の作品です?


†メグレと若い女の死 ポケミス(1188)


   ジョルジュ・シムノン/著 北村良三/訳

   昭和47年11月30日 初版発行

   ポケット・ブック版(106×184ミリ) 173頁 300円


◎メグレ本の書誌についてはこちらへ/http://www.asahi-net.or.jp/~px5t-isi/

栞(しおり)コレクション その22011/08/22 19:22

薬師丸ひろ子&原田知世

†監督・角川春樹「薬師丸ひろ子、原田知世」の時代


 人気アイドルの二人の主演作品の原作文庫を収録した「角川文庫」に挟み込まれていた栞です。

 愛読者サービスとして、映画の割引入場券にもなっているところがミソで、映画の宣伝ばかりでなく、原作文庫の売り上げとの相乗効果を狙った新基軸、失墜まえの春樹さんはさすが ?

 あれから三十年近く経ちました。春樹の角川が懐かしい。